昨日、久しぶりに友達と飲みに行った。女は俺とシラやさいちゃんだけだったが、友達には全員彼女がいたので特に何も起らなかった。
お酒も言うほど飲んでないから意識もはっきりしているし、アレなことはしでかしてないはず。
それなのに。

「わかってるよね?ふうちゃん」

「ひっ」


今俺は、恋人の家で嫉妬に狂った恋人に殺されかけている。
なんでだ。

「私だけを見てよ。なんで他の奴なんて見るの?なんで?なんで?ねえ?」

零は包丁片手に歩いて逃げ惑う俺を追いかけてくる。距離はあるはずなのに、すごく近く感じる。普段ならどんなに嬉しいことか。今は死ぬほど遠慮したい。

「だからっ、別に何もなかったんだって!」

「お酒飲んだんでしょ?気づかない内に何かされてるかも知れないじゃん」

「推測で包丁持ち出すなよ…!そんなに飲んでないからちゃんと覚えてるってば…!!!シラとかもいたんだぜ?!」


「しーちゃんたちも居たの…?へえ…男じゃなくて女と浮気したの?」

もともとヤンデレ気質ではあったけど、ここまでとは思っていなかった。いやもう最悪。話が通らない。ゲームなら完全に詰みの状態だろう。


「もしされてなくても気持ち悪い手でベタベタ触られたんでしょ?なんでそんなこと許すの。私のこと嫌いなの?嫌いなんでしょ??」

「嫌いじゃねーよ!好きだよ!」

二階に駆け上がる。焦ってるせいか、足がもつれて転びそうになる。


「じゃあ…なんで!」

「だから何もなかったんだって!本当に!信じろよぉ!」

「…だったらもう会わない?」

一番奥の部屋に入る。逃げ場はない。

「会わない!それで零の気が済むんだったら会わないから!」

歩いていたはずなのに、零はもう俺の目の前まで迫って来ていた。キラリと光る包丁が怖い。


「……じゃあ許してあげる」

そう言って包丁を床に置く零。やっと分かってくれた…とほっとする。


「私のこと好き?」

「さっきも言ったでしょ。好きだよ」

「そっか…」


へへ、と嬉しそうに笑う零。もういつもの零だ。俺は気が抜けてその場にへたり込んだ。
けれども気が抜け過ぎたのか零の呟きが聞こえなかったんだ。


「でも、次やったら殺すから」
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